平成26年度 年次講演会・ 国際シンポジウム開催報告

 

 平成26年5月26日(月)から28日(水)にわたって、(独)理化学研究所生物科学研究棟(和光キャンパス)において、年次講演会および国際シンポジウムが開催された。これは、平成25年度に日本分光学会が公益社団法人に移行したことに伴い、従来秋季(11月)に開催していた年次講演会が春季開催となる最初の年次講演会である。昨年11月に前年度の年次講演会が開催されてわずか半年であるため参加者数の減少が懸念されたが、さいわい諸理事をはじめ関係者の方々のご尽力により、むしろ延べ人数で192名と微増して、無事成功裡に終えることができた。

 会場の構成は、メイン会場である鈴木梅太郎ホールにおいて年次講演会・国際シンポジウムおよびランチョンセミナーが行われ、ホール手前ロビーには、受付と企業展示ブースおよびコーヒーブレイクスポットがおかれた。ポスターセッション会場には2階ロビーが用意された。

ポスターセッションは、全38件を奇数番号(I)と偶数番号(II)に分けて、1日目および3日目の13:30〜15:00にそれぞれ発表された。

 年次講演会は、尾崎実行委員長の開会の挨拶で始まった。1日目午前中には一般講演6件が行われ、昼食時にランチョンセミナーが開催された。午後はポスターセッションIの後、昨年度奨励賞受賞者の宮崎充彦氏(東工大)の受賞講演が行われた。

引き続き今年度日本分光学会賞・奨励賞の授与式および受賞講演が行われた。
今年度の日本分光学会賞は、太田信廣氏(北海道大学)「電場および磁場を絡めた分光法による光分子科学研究」および関谷博氏(九州大学)「多重共鳴分光法による分子・分子クラスターの励起状態」に対して贈られた。奨励賞は、山本茂樹氏(大阪大学)「ラマン光学活性分光と量子力学計算による溶液中タンパク質構造の解明」および高屋智久氏(学習院大学)「超高速時間分解近赤外吸収および異方性分光法の開発と凝縮相ダイナミクスへの応用」に対して贈られた。緑川会長から賞状および記念品が手渡された後、4氏による受賞講演が行われた。

受賞講演終了後、恒例のウェルカムドリンクが、キャンパス内広沢池畔にある広沢クラブ2階会議室において行われた。乾杯の音頭は茅幸二氏(理研)にお引き受けいただいた。1時間という限られた時間であったが、今年度受賞者の方々のスピーチとともに参加者同士の歓談で、賑やかな会となった。

2日目は終日にわたり理化学研究所と共催の国際シンポジウム「超高速分光の最前線」が開催された。プログラムは、当該分野で著名な国内外の研究者による招待講演6件および一般講演9件から構成された。

国際シンポジウムは、緑川会長による開会の挨拶で始まった。最新の研究成果に基づく講演者の発表内容と、聴衆との活発な質疑応答により、進展著しい研究分野の潮流が肌身で感じられる刺激的なシンポジウムとなった。以下に、招待講演者6名の講演内容について紹介する。

竹内佐年氏(理研)は10fsオーダーの光パルスを用いて分子振動を時間領域で観測する分光手法を駆使して、基本的な光化学反応や光受容タンパク質における構造ダイナミクスの研究について報告した。

Marcus Motzkus氏(ハイデルベルク大)は超短パルスレーザー、光位相変調装置、顕微鏡を組み合わせた独自の手法により、高いスペクトル情報と速いイメージ取得能をあわせ持つ非線形ラマン分光について紹介した。光位相制御により、非線形信号によく見られる不要な成分を効率的に除去できることも示した。

Lin X. Chen氏(アルゴンヌ国立研)はフェムト秒吸収・蛍光分光および放射光を用いた時間分解X線吸収分光による銅(I)ジイミン錯体の励起状態ダイナミクスに関する最近の成果を報告した。特に、これらの錯体の励起状態での構造変化と光化学的性質との連関について議論した。

Mauro Nisoli氏(ミラノ工科大)はアト秒パルスを用いたポンプ‐プローブ分光の最新状況について報告した。特にアミノ酸の一種であるフェニルアラニンについて、荷電フラグメントの収率が時間とともに振動する様子をもとに、初期の電子移動過程について議論した。

鍋川康夫氏(理研)は独自の集光デザインにより発生させた高強度の高次高調波パルス列について紹介した。特に窒素のイオン化・解離による信号から自己相関を求め、パルス列の時間構造を明らかにした。また、この極端紫外領域のパルスを照射した場合の水素分子の時間挙動についても最近の結果を報告した。

Marc Vrakking氏(マックス・ボルン研)は極端紫外領域のアト秒パルスを用いたポンプ‐プローブ分光の分子系への適用について議論した。特に水素分子の解離性イオン化における電子の局在化に関する興味深いデータを示し、アト秒〜数フェムト秒領域での電子のダイナミクスについて議論した。

国際シンポジウム終了にあたって、田原実行副委員長の挨拶があった。
国際シンポジウムの懇親会は、和光市駅にほど近いイタリア料理店にて開催された。乾杯の音頭は小林孝嘉氏(電通大)にお願いした。会の半ばには海外からの招待講演者のみなさんにスピーチをいただいた。懇親会には、シンポジウム参加者とともに展示企業の担当者も参加して、なごやかな雰囲気で情報交換ができた。予定を30分超過して20:30に終了した。

3日目は年次講演会のプログラムに戻り、10件の一般講演が行われた。午前中のコーヒーブレイクを利用して、機器展示見学会が行われた。午後には、ポスターセッションIIが行われた。
午後の一般講演終了後、若手講演賞ならびにポスター賞の受賞者が発表された。
一般講演賞は、西山嘉男氏(分子研)、井手口拓郎氏(マックス・プランク研)および岩井貴弘氏(東工大)の3氏に対して贈られた。ポスター賞は、Aniruddha Adhikari氏(理研)、市川陽一氏(早稲田大)、加藤康作氏(東京大)、渡辺洋輔氏(東工大)および牛尾公平氏(東工大)の5氏に対して贈られた。緑川会長から各人に賞状と記念品として図書カードが手渡された。

年次講演会のプログラムは、緑川会長による閉会の挨拶によってすべて終了した。
会期中の昼食時(12:00〜13:30)、鈴木梅太郎ホールで協賛企業によるランチョンセミナーが開催された。各日とも2つの企業による製品紹介が行われた。幸い3日間とも満員となる盛況だった(各日定員50名)。

 本年次講演会および国際シンポジウム開催にあたり、広告掲載や製品展示ならびにランチョンセミナー等、多くの企業様からご支援をいただいた。以下に記して感謝申し上げる(50音順)。

 エバ・ジャパン、オーシャンフォトニクス、ケイエルブイ、島津製作所、スペクトラ・フィジックス、ソーラボジャパン、デジタルデータマネジメント、東京インスツルメンツ、日本サーマル・コンサルティング、日本分光、日本ローパー、堀場製作所、レニショー、プネウム、WITec。

参考までに、平成26年度年次講演会・国際シンポジウムのプログラムは、以下のURLで公開されている。
http://www.bunkou.or.jp/events/events1/2014/pdf/program_140526-28.pdf

 来年度の年次講演会および国際シンポジウムも、今回と同時期(5月)に東工大(大岡山キャンパス)で開催される予定となっている。

(文責:小林徹、竹内佐年、早澤紀彦)

写真1 国際シンポジウムにおける討論風景

写真2 活発なポスターセッションの様子

写真3 緑川会長(左)と日本分光学会賞
を受賞した  太田信廣氏(北海道大学)
写真4 日本分光学会賞を受賞した
関谷博氏(九州大学)
写真5 奨励賞を受賞した
高屋智久氏(学習院大学)

写真6 奨励賞を受賞した
山本茂樹氏(大阪大学)