日本分光学会第54回夏期セミナーの報告

2018年9月5日から7日までの3日間、幕張メッセ国際会議場において、日本分光学会第54回夏期セミナーを開催しました。初日の9月5日は赤外・ラマン分光部会が「ラマン分光法」と題したセミナーを、2日目はテラヘルツ分光部会が「テラヘルツ分光と低波数ラマン分光の基礎と測定法」を、3日目はスペクトル解析部会が「PLSを用いた重回帰分析のコツ」を実施しました。3日間を通して述べ143名がセミナーを受講し、11名の講師に講義をお願いし、11社から協賛をして頂きました。講義をして頂いた先生、及び協賛をして頂いた企業に、この場を借りて御礼を申し上げます。本セミナーは、隣接する幕張メッセ国際展示場で開催された分析機器の総合展示会であるJASIS 2018と同時開催とし、3日間とも昼休みに十分な時間を設けて、協賛企業を含めた出展企業等のブースを見学して頂きました。以下に各セミナーの詳細を記します。

9月5日(水) 「ラマン分光法」
ラマン分光法は浜口宏夫先生の、“今ラマン分光で見えること”というタイトルでスタートしました。ラマン分光を知らない人にも親しみやすい話から始まり、後半は多変量解析法の紹介を行い、ラマンスペクトルが定量分析として優秀であること、今まで検出できなかったスペクトル成分を抽出して先端研究に応用することができることを、実例を交えて披露していただきました。古川行夫先生には、“ラマン分光による有機半導体材料の評価”ということで、デバイス作製とその評価を行なっている企業の人には役に立つ情報満載の講演をしていただきました。共鳴ラマン効果と励起波長の選び方、動作しているデバイスの温度の正確な測定法、物性とスペクトルの関係など、興味深い話題が多くありました。休み時間には、講師と受講者の間で多くのディスカッションが行われました。JASIS見学のために2時間の休憩をはさんで、午後の講演を行いました。佐藤春実先生には“ラマン分光の高分子化学への応用”と題して、ご講演いただきました。我々の生活に不可欠なプラスチック等の高分子の基礎化学について、低振動数ラマン分光とテラヘルツ分光により、結晶構造や分子間構造相互作用が明らかになっていく様子が一つ一つ丁寧に紹介されました。森山圭先生には、“医薬品開発製造過程におけるラマン分光法の応用”ということで、興味深いお話をしていただきました。医薬品開発には、有効成分が含まれているのみならず結晶状態や混合状態を管理しないと正しい効能を得ることができないために、顕微ラマン分光とスペクトルによる評価が必要であるという点が明らかにされ、分野外の聴衆も熱心に耳を傾けました。以上、ラマン分光の有用性を余すところなく紹介した講習会となったと考えています。
(学習院大学 齊藤結花)

9月6日(木) 「テラヘルツ分光と低波数ラマン分光の基礎と測定法」
テラヘルツ分光部会では、2年前に「テラヘルツ分光法」というタイトルでセミナーを開催しましたが、今回は最近発展の著しい低周波数ラマン分光も含めた「テラヘルツ分光と低波数ラマン分光の基礎と測定法」というタイトルで夏期セミナーを主催しました。テラヘルツ分光もラマン分光もスペクトル構造の起源となる物理現象が同じことが多いため、双方の長所短所を理解し最適な手法を選ぶことが、今後の研究で重要になってくると思われるからです。

セミナーでは、最初に理研の保科宏道先生による「テラヘルツ分光の基礎」というタイトルの講演が行われ、テラヘルツ分光の手法と原理、テラヘルツ分光で見える現象と、それを理解するために必要な事など、テラヘルツ分光全般の基礎が解説されました。その後、信州大の宮丸文章先生により「メタマテリアルのテラヘルツ分光」と題して、メタマテリアルのテラヘルツ分光の基礎と、先生ご自身の研究例として、「結合共振器メタマテリアル」や「ハイパーレンズによる近接場リアルタイムイメージング」をご紹介いただきました。理研の白神慧一郎先生の講演「水溶液のテラヘルツ分光」では、何故水をテラヘルツで見るのかといった疑問に対する答えからはじまり、水溶液のテラヘルツ分光の手法の基礎的な解説、そして「温度応答性ポリマー水溶液」や「トレハロース水溶液」を対象としたご自身の研究の紹介がありました。神戸大学の佐藤春実先生のご講演では、高分子の分子間相互作用がテラヘルツ分光や例周波数ラマン分光でどのように観測されるか、またそれらの知見を元にしたイメージングや劣化診断などの応用研究が紹介されました。Ondax, Inc.のAnjan Roy先生による講演では、低周波数ラマン分光の基礎とそれを用いたアプリケーションについて紹介されました。いずれの講演においても、終了後参加者による活発な質問があり、テラヘルツ分光に関する最新の研究に、皆様興味を持って頂けたと思います。
(理化学研究所 保科宏道)

9月7日(金) 「PLSを用いた重回帰分析のコツ」
Partial Least Squares (PLS) 回帰は分光法を用いた定量分析で実践的に用いられている計算方法です。今回のセミナーでは、まず始めに、名古屋大学の稲垣哲也先生に「PLSの基礎」と題して講義をして頂きました。ここではBeer-Lambert則を多波長に拡張して行列のかたちであらわすところからスタートし、CLS,ILS,PCRのそれぞれの計算と長所短所を概観しながら、PLS2とPLS1の原理が丁寧に説明されました。続いて筑波大学の源川拓磨先生に「PLSの計算」と「スペクトル前処理」を連続して講義して頂きました。ここでは市販のソフトウェアであるUnscramblerを用いて実際にPLSの計算をする手順が示され、また、測定スペクトルをそのまま計算したときに起こる問題を指摘しながら、精度良く定量分析を実現するためのコツが紹介されました。最後に琉球大学の平良英三先生に「PLSの実践」と題した講義をして頂きました。平良先生は沖縄県と鹿児島県にまたがる南西諸島でさとうきびの品質評価に関わっており、作業工程管理、オペレーターの指導、複数の装置管理、検量モデルの保守、ネットワーク管理、といった現場で実際に起こっている問題を紹介して頂きながら、それらの解決方法を具体的に示して下さいました。以上のように今回のセミナーでは、基礎から応用まで、実際にPLSを使って定量分析をするときのコツが丁寧に示され、講師陣と受講者で活発な意見交換がなされました。
(大阪電気通信大学 森田成昭)